メイン州の詩 ~ Ice Storm, Part 4

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©William Ash

 

「白松ークリスタルな森の主」

 

氷は

一本の針すら 見逃さなかった

白松の葉は

ひと針 ひと針 氷でつつみこまれ

落ちた葉は 雪と氷の間で

標本のように閉じ込められた

 

森は 今

空から放たれた氷の巣の中に沈み

寒風にこすれ合いながら

痛げに メタリックな音をたてている

 

けれど‥‥

太陽が顔を見せれば

絡みあう氷の網に 光が 一気に走る

無数の網の中を 交差して照りかえしながら

森をきらめかせ

触れたものを容赦なくとらえていた氷を

その輝きのうちに 消していく

 

かけらに変え

しずくに変えて

森の底へと 消していく

 

そして

ひときは高い樹冠をもつ白松が

いち早く

青空の息吹の中に 放たれる

 

メイン州の森の主たる白松は

こうして 数十年 数百年と

厳しい冬を超えていく

 

輝きの中に立つ

自らの姿を 知っている

 

(注)

ここでいう白松は、Eastern White Pineとよばれる北米の北東部にみられる白松のことで、中でも、メイン州は「Eastern White Pineの州」とよばれている。樹高が高く、50メートルを超えるものも見られ、成木は200年から250年の樹齢がある。

 

 

メイン州の詩 ~ Ice Storm, Part 2

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©William Ash

「アイスストームの朝 12/22/2013」

 

たとえ

「氷におおわれ、道路はたいへん危険です。」と

天気予報のおじさんが声をあげていても

ドアをあけて一歩踏み出したとたんにすべって転んでも

車がまるまる一台 凍りついていても

クリスマス用のケーキを焼いている途中で停電がおきても

あわてることはありません

 

たしかに

氷におおわれた低木は どんどん頭を下げて折れんばかり

来年に実をつけるはずのブラックべリーの枝は 雪原で総倒れ

森からはひっきりなしに 枝がもげるように折れて落ちる音がして

しかも 氷雨はいまも森を打っています

けれど‥‥あわてることはありません

 

本当に息を飲む瞬間は これからです

ひたすら窓の外をみて 待ちましょう

そして 雲間から太陽が顔を出そうものなら

森に入っていきましょう

絶対に見逃してはいけません

すべてが光のかけらとなって輝き

空間がきらめきの音でいっぱいになるあの瞬間を

 

光の中に こつ然として浮かぶ

神々しいイルミネーションの初まりを

 

今はわが森で冬眠しているシマリスだって

もし目覚めて その光景を見たならば

びっくりして また目を回すことでしょう

 

©大坪奈保美2013

ウインター・サプライズ 〜 樹氷

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月曜日 目覚めれば 外は白銀の世界になっていた
まわりの音が雪に吸い込まれて消える 静かな朝
こんな日には 逆に
雪をかぶった木々の 聡明な息づかいが感じられる

その下で 「ハーハー」言いながら
早くも 今年初めての雪かきとなった

時折 枝から滑りおちた雪が
首筋とコートの間から入って 体の中を解けて流れる
スコップを放りなげて悲鳴をあげる我を
白装束の森が 枝をもたげて見下ろしてくる

 

 

メイン州の詩 〜冬の足取り 2013

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by William Ash               画像をクリックしてご覧ください。

この明け方の雨音は 夢のなか?
潤いのある水音は 春の目覚め?

いや いや これが  冬のやりかただ

今年は まず
晩秋に使者を送ってきた
それはまだ 暖かみを残す光のなかで
裸の木々が浮かび上がってくるような午後だった
青い空から 白い花びらのような粉雪を降らしてきた
ほんの数分のことだった

ところが、数日後には
空全体を鳴らして 北極気団が押し入ってきた
弱い木々を 二日間にわたってなぎ倒し
闇にまぎれて 大地を雪で覆っていった

それを見た瞬間 私の心から消えた

たった数センチの雪の下に横たわっている秋が
凪いだ海に浮かんでいたたくさんのヨットが
豊作によろこんだ赤いトマトが
道ばたに咲き乱れていたオレンジ色のユリが 消えた

私は 冬しか知らない北極の生き物になった

蒔きストーブの前にじっと座って
車のフロントガラスの向こうを真っ白にする吹雪を妄想した。
せいぜい5回ぐらいしかない雪かきが
毎日あるかのように思えて心臓が重くなった
証拠にも無く またコートを買うことを考えた

それなのに……

今朝は打って変わって この豊かな雨音が
懐かしい響きをもって 目覚めをさそってくる
カーテンを開ければ
水をたっぷりと吸って 芝は青く
落ち葉は 前よりも一層、色が深い
息を吹き返したのは 秋か それとも我が心の春なのか?

いや いや もう ぬか喜びさせられるのはうんざりだ

見ててご覧!
冬は 今日14度まで気温をあげて溶かしたものを
明日の朝までに 一気にマイナス5度にして
ブラックアイス(注)に仕上げてみせるから
こうして Thanksgivingのパーティーに
はやる心をくじかせて 急ぐ足をすくうのだ

これが  冬のスタイルだ
こうして 冬はやってくる
毎年 人をやきもきさせながら
しかも 見事に 足取りを変えてやってくる

メイン州に住んで7年
11月から12月のこの変わり目が
どうにもこうにも 好きになれない

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先週のThanksgivingの一週間は、快晴だったり、暴風、雨、雪と天候が目まぐるしく変わった。 ときにマイナス25度ぐらいまで下がるメイン州の冬にまだまだ慣れていないので、ほんの冬の入り口でありながらも、この季節の変わり目は落ち着かない。

(注)ブラックアイスとは、路面にできた薄い氷の膜。テカテカと黒光りして見え、アスファルト上の水のようにしか見えないが、実際には凍結しているので、とても滑りやすくハンドルをとられやすいため、非常に危険とされる。

ビーナスのベルト  

先週、アーカディア公園(Acadia National Park)のキャディラック山(Cadillac Mountain)に行ったとき、「ビーナスのベルト (Belt of Venus)」と呼ばれる現象をみた。よく見られる大気現象で、地球の影によって、太陽からの赤い光の下が濃紺になって帯のように広がる現象をいう。日の出または日没に、太陽とは反対側の空で見られる。

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Belt of Venus by William Ash      画像をクリックしてご覧ください

「詩〜染まるバーハーバー」

眼下のあの町に住む人は 今 この優しい光のなかで
夕飯の支度におわれているのだろうか
薪ストーブをたいて 魚を切ったり 野菜を洗ったりしているのだろうか
別荘に週末だけもどった人は
レストランでワインを飲んで ロブスターなど食べているのだろうか
それとも 大雪のまえに別荘を閉めることで頭がいっぱいになっているのだろうか

みんな なんでもいいから 東を見てごらんよ
海までも ピンク色を帯びているよ
ビーナスが みんなに触れているよ

 

 

 

 

鳥居 〜 くぐるもの

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東京の明治神宮の鳥居 by William Ash

神社は大好き
長い参道を歩くと 迎えられているような懐かしい気持ちになっていく
大きな木をみると 優しい気持ちになる
お祭りがあれば屋台がでて 大人も子供もみんなが楽しそう
だから神社は大好き

でも わからない
鳥居の内は聖域で 外は聖域じゃない
ということがわからない

神道は八百万の神であり
すべてに神の命が宿るんじゃなかったかしら?
聖域じゃない場所があって いいのかしら?
そんな世界があると 認識していいのかしら?
認識すればするほど その存在は強固なものになるんじゃないのかしら?

鳥居よ なぜ在る?
優美で均整のとれた形がもつ侵しがたい強さは どこから来た?
本当は 何を 守っている?

By Naomi Otsubo
Futon Daiko - William Ash

詩 ー ドイツ、1968年 ー

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1968年 あなたが 笑っている

腰に手をあてて 毛糸の帽子をかぶり

緑の縞のセータをきて 茶色のコーディロイのズボンをはいて

ドイツで ポーズをきめて笑っている

4歳であり 4歳でないあなた

あなたは こうしてずっと命のはじまりにいて

生まれでたものに 微笑んでいる

  その押さえきれずに溢れでた歓びのなかで 万物は生まれ

  今も続く無邪気なクスクス笑いのなかに 万物が生きている

その姿をみると 私にもわかってくる

  神は 愛おしむという行為をとおしてのみ

  自分を現すことができるのだと それが本性なのだと

4歳であり4歳でないあなた

星の数ほどのキスを 私は贈る

 

(注)このブログの英語版のほうも、言語をEnglishに切り替えてご覧ください

晩秋の静けさ Part 3

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by William Ash

ーメイン州の詩 ・晩秋のちぎり絵ー

 

風もなく 雲もなく 空が青色だけの日

ちぎり絵の中へ入っていく

 

赤の色紙 橙の色紙

黄色の色紙 べっこう色の色紙

 

みんな足下で色あせて 今もなお

ときおり青の台紙から

ひらひらと剥がれ落ちてくる

 

裸の枝には

灰色をしたドバトが 2羽

台紙に穴をあけたように とまっているだけだ

 

あ~ だれかが

あの穴から こっちをのぞいているんだなぁ

お前は 冬か? もう くるのか?

 

 

メイン州の詩 ー 晩秋のカントリーライフ

 

マグカップをにぎって 朝の庭を歩く

足下の土は 日に日に固くなっていき

バードフィーダーは アメリカコガラに占領され

その下では ドバトがのんびりと 落ちた種を拾うように食べ

シマリスが ほほをいっぱいにしながらも

まだ大急ぎでえさをつめこんでいる

しかし まだ やつの姿はない

今のうちに あの低木を切ってしまおうか?

最初はやせていて 狩りもへたくそ

厳寒の中 バードフィーダーの下に当然のように座っていた

それがこの数年 晩秋にひょっこりとどこからかもどってきて

あの暗い低木の下に潜むことを覚えた

地面のえさに気を取られて

ふらふらと迷い込んできたものに飛びかかり

庭のどこかへいって ひとりでゆっくりと食するようになった

あー いやだ いやだ

ただでさえ寒い冬 わが庭でそんな血が凍るような光景は見たくない

今 低木を切ってしまえば きっとやつもいなくなる

しかし やつは‥‥おそらく‥‥野ネズミもとってくれている‥‥

屋根裏にはいってきて

煙突のまわりに 小さなふかふかのベットをつくって

ぬくぬくとする野ネズミたち

やつなら ねずみ取りにもかからない頭のいいネズミもとれるはず

あー こまった こまった あの黒猫め!

コーヒー片手に散歩を楽しもうと思ったのに

私の頭は 今朝もまた木の下をにらんで 堂々巡りをはじめた

by 大坪奈保美 ©Naomi Otsubo 2013

 

(注)ひとつ前のブログもご覧ください

 

 

メイン州の詩 ー 秋の午後

「秋の午後」

土曜日の午後

あなたがソファで 横になって眠っている

こんなときは 私も静かな気持ちでいよう

りんごの皮をむきながら

パイ地をのばしながら

台所の窓の外を見たりして

安らかな気持ちで時をすごそう

きっとあなたは今 眠りのなかで

落ち葉をふみながら あの木立の中を歩いている

ときどき、梢の向こうの空をみあげ

うろこ雲をみつめたりしている

立ち止まっては 野草がつけたたくさんの種を

珍しい昆虫か何かのように見入っているかもしれない

そして あと小一時間もすれば あなたは

琥珀色に輝く光となって流れる風の中で

ささやきを聞くだろう

「お茶の時間ですよ」

 

 

By Naomi Otsubo ©Naomi Otsubo 2013